アニメやマンガを違法にアップロードして、広告費等で収益を得る、所謂海賊版サイトの運営者にとって2021年はお世辞にもいい年ではなかったことだろう。この手のサイトでおそらく日本では最も有名(悪名?)だった「漫画村」運営者は、6月2日に福岡地裁で、懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6257万円という判決を言い渡されている。今年に入ってから、大手違法サイトの閉鎖は日本国外でもいくつかの案件が見受けられた。
始まりは2020年8月のことであった。世界で最もよく使われている違法マンガ・アニメサイトの一つと言われていたKissAnimeの管理人と思われる人物がDiscordに「ベータ版のサーバーがダウンしたため、ウェブサイトの閉鎖につながる可能性があります。結論が出てから改めてお知らせします。」とのメッセージを投稿。その数時間後には「全てのファイルは著作権者によって取り下げられます。KissMangaとKissAnimeは永遠に閉鎖されます。」との投稿がなされ、すべてのファイルが閲覧不能になったのである。この事態にはアメリカのテキサス州にオフィスを構え、アニメの配信を行っているFunimationが深くかかわっていたようだ。この会社は2011年に『ワンピース』の違法配信を行ったとして、地元の裁判所に1337人のユーザーを著作権侵害で告訴するなど、海賊版への断固とした対応で知られている。2017年、FunimationはクラウドホスティングプラットフォームのDigitalOceanのサーバーの一つがKissAnimeの配信に使われていることを突き止め、その停止を要求。さらに連邦裁判所にデジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)召喚状を請求、問題のIPアドレスに接続している顧客の連絡先情報をすべて引き渡すよう要求したのだった。かくして最盛期には数百万アクセスを誇ったKissAnimeは消滅と相成ったのだった。
2021年7月、同じく海賊版サイトの4AnimeとSimply.moeが閉鎖された。サイトのリダイレクトメッセージでは、「ある事情によりサイトを閉鎖せざるを得なくなった」と述べられている。実はその数か月前、オーストラリア連邦裁の措置により4Animeは同国からアクセスができなくなっていた。世界的な反海賊版団体であるAlliance for Creativity and Entertainment (ACE)がKissAnimeの閉鎖によってユーザーが移動してきた4Animeを処分するべく動いていたこと、またミシガン州の連邦裁判所に、4Animeのサーバーが置かれているCloudflare社にたいして、使用者の名前、住所、請求記録、電子メールアドレス、IPアドレス、および責任者の追跡に役立つその他の情報の引き渡しを求める召喚状が提出されたことがサイト閉鎖の直接の原因となったと考えられている。
ただ、KissAnimeが消えた後に4Animeにユーザーが流れたように、4Anime閉鎖の後にも他の違法サイトにユーザーが流れたであろうことは想像に難くない。実際、4Animeで検索を掛けると、類似サイトの紹介とリンクが張られた記事がこれでもかと出てくるありさまだ。この「おすすめサイトへのリンクを貼る行為」を罪に問うことが難しいという現状では、海賊版サイト対策がいたちごっこになってしまうのも無理からぬ話である。この状況に対して一つの抜本的な対策になるかもしれない一つの判決が、9月に韓国最高裁で下された。2015年、映画やドラマなどを違法に公開しているサイトへのリンクを自身のHPに掲載していたとして起訴された人物の裁判で、「リンクは映像著作物のウェブ位置情報などを示したものに過ぎず、著作権侵害行為にはあたらない」として無罪を言い渡した一審・二審の判断を覆し、「リンク行為も公衆送信権侵害の幇助に該当することができる」として差戻しを言い渡したのだ。この判決は映画・ドラマ界だけでなく、近年やはり海賊版問題に頭を悩ませているウェブトーン業界からも歓迎の声が上がっている。
「そもそも正規品にリーチする手段がなく、海賊版サイトがないとコンテンツを見る(読む)手段がない」という声はこと海外からはよく聞く話である。だが、ネット環境の向上とタブレット・スマートフォンの急速な普及は、新興国の消費者に正規品へ到達する手段を徐々に提供しつつある。違法サービスへの対策、そして正規サービスの拡充は、車の両輪と言えるだろう。
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